ブログ

2021.11.04

強者と弱者の論理-金信雄さん

 

強者きょうしゃ弱者じゃくしゃ論理ろんり金信雄キムシンウンさん

 

おさなころはなしだ。はるになると、学年がくねんがって、あたらしい担任たんにん先生せんせい出会であう。毎年まいとしそれがかえされる。

大変たいへんなかで、信雄シンウンくん本当ほんとうにいいそだちましたね。えらいね。」

これは、学年始がくねんはじめにおこなわれる面談めんだんで、わたしかされた言葉ことばである。中学ちゅうがくさん年生ねんせいまでは毎年まいとしずっといていた。このはなし背景はいけいには、わたし家庭環境かていかんきょうがあまりゆたかではなかったという事実じじつがある。わたし3歳さんさいときに、両親りょうしん離婚りこんした。それ以後いご祖母そぼそだててくれた。経済的けいざいてきにも、いわゆる貧困層ひんこんそうくらいである。授業じゅぎょうで「みなさんの一週間分いっしゅうかんぶんのお小遣こづかいはいくらですか?」と質問しつもんされたとき、「わたしはお小遣こづかいをもらっていません」とこたえるであった。ともあれ、そういう家柄いえがらが、学校がっこうでは先生せんせい指示しじ率先そっせんしてしたが模範生もはんせいであったため、そのように評価ひょうかしてくれたのであろう。ねん一度いちどまったおな言葉ことばめられていると、いつからかわたし気付きづいていたとおもう。自分じぶんが、社会しゃかい弱者じゃくしゃとしてあつかわれていることを。

貧乏びんぼうだから、他人たにんちがうから、弱者じゃくしゃだからといって、わたし自身じしん大変たいへんおもいをしたことはたいしてい。小学校しょうがっこうころわたし同年どうねんだいよりもおおきかったし、口喧嘩くちげんかではけた記憶きおくい。しかし、あくまでわたし場合ばあいであった。学校がっこうにはいろんな「よわ」がいた。その子達こたち大変たいへん羽目はめになる光景こうけいを、幾度いくどにした。きな特撮とくさつヒーローもの影響えいきょうだか、わたしはそのたびかれらの味方みかた自称じしょうしていた。それが格好良かっこういいとおもったのもあったが、「なぜこのぼくみたいにかえないんだ?」と不思議ふしぎおもっていたからだ。これが通用出来つうようできたのは小学校しょうがっこうころまでだったが、すくなくとも弱者じゃくしゃよりになる傾向けいこうはこのころからはじまったとえよう。


より弱者じゃくしゃ少数者しょうすうしゃ関心かんしんはじめたのは、中学生ちゅうがくせいころ労働者人権ろうどうしゃじんけん興味きょうみを持ってからである。要点ようてんのみをげると、ここでわたし強者きょうしゃかかみ、弱者じゃくしゃほうり出す社会しゃかいのありかたさとって、それを【強者きょうしゃ弱者じゃくしゃ論理ろんり】と自分じぶんなりに定義ていぎした。ちょうどこのころ、【ゲイ】という概念がいねんはじめてれた。そのまえから男同士おとこどうしこいをする、もしくは性的行為せいてきこういおこなうことについてはっていた。当時とうじはゲイポルノがインターネットの面白おもしろネタとして消費しょうひされることが流行はやっていた時期であったため、そのまえまでは自分じぶん面白おもしろがっていた。しかし【ゲイ】が単純たんじゅん男同士おとこどうしこいのことをしめすことではなく、社会しゃかい多数派たすうはとはちがうせいで大変たいへんおもいをしている弱者じゃくしゃたちのことだという事実じじつを、このころようやく理解りかいしたのであった。


 

テキストでんだ男性だんせいカップルの養育里親よういくさとおやかんする記事きじは、同性どうせいカップルと里親制度さとおやせいどについてのはなしである。少数者しょうすうしゃ弱者じゃくしゃはなしになると、わたしみながら感情かんじょう移入いにゅうせざるをない。この記事きじ文頭ぶんとうから、同性どうせいカップルが里親さとおやとして“はじめて”認定にんていされたことをげている。ということは、それまでにはまった認定にんていされてなかったということだろう。わたしくやしい気持きもちがいた。ここでも強者きょうしゃ弱者じゃくしゃ論理ろんり作用さようしているとおもった。従来じゅうらい制度せいど異性いせいカップルをかかんで、同性どうせいカップルをほうしている。記事きじ内容ないようしゅくすべきだとはおもうが、いまだにおなじスタートラインにすらてていない。くやしくてたまらない。ネガティブな感情かんじょうしきれない。


性的せいてき少数者しょうすうしゃたちに、強者きょうしゃ弱者じゃくしゃ論理ろんり社会しゃかい数多あまたなところで影響えいきょうしている。なかのあらゆる制度せいどは、少数者しょうすうしゃたちにあまりにも過酷かこく基準きじゅんつくられているのだ。先程さきほど記事きじでは変化へんか成功せいこうした事例じれい紹介しょうかいされているわけだが、変化へんか失敗しっぱいしたれいもたくさんある。去年韓国きょねんかんこくでは、あるトランスジェンダーの軍人ぐんじん話題わだいとなった。下士官かしかん[1]변희수(ビョン・ヒス)はMTF(Male To Female)手術しゅじゅつけ、女軍じょぐんとしてふくすることを嘆願たんがんした。彼女かのじょ上官じょうかん許可きょかもと適切てきせつ手続てつづきをまえてそれを実行じっこうしていた。同僚どうりょうたちも彼女かのじょを応援したという。しかし、おどろくべきことに、くに彼女かのじょ拒絶きょぜつした。軍首脳部ぐんしゅのうぶ彼女かのじょしん身障害者しんしょうがいしゃなし、強制退役きょうせいたいえき処分しょぶんくだした。ビョン下士官かしかんは、みずかいのちとした。それからいち年以上経過ねんいじょうけいかした現在げんざいも、ぐんなにわっていない。


 

おさなわたしいだいた不思議ふしぎ、「なぜこのぼくみたいにかえないんだ?」ということは、わたし自身じしん一面いちめんにおいては強者きょうしゃだったからえたことにぎない。強者きょうしゃ弱者じゃくしゃ論理ろんり自覚じかくしてからは、弱者じゃくしゃ如何いかかおうと社会しゃかいなにわらないという悲観論ひかんろん可視化かしかしてくる。ビョン下士官かしかんのことをかんがえると尚更なおさらだ。しかし、すこしずつ社会しゃかいわっていくのもまた事実じじつである。悲観的ひかんてきとらえて絶望ぜつぼうするのは、この不条理ふじょうりえようと力尽ちからつくしてきたひとたちにもうわけない。わたし自身じしんけっして積極せっきょくてき社会改革運動しゃかいかいかくうんどうはげ人間にんげんではないが、社会しゃかいのありかたえていきたいとつよねがっている。自分じぶんなりに出来できることをさがしていきたい。

[1]  日本国自衛隊にほんこくじえいたい三等陸曹さんとうりくそうにあたる階級かいきゅうである。

 

わり)