コリア文学ぶんがくの中なかの京都きょうと：鄭チョン芝溶ジヨン・尹ユン東ドン柱ジュを中心ちゅうしんに－キム・チャンミンさん

日本にほん統治とうち時代じだいの朝鮮ちょうせんから日本にほんへ留学りゅうがくした文人ぶんじんの中なかで、京都きょうとで生活せいかつを送おくったのは、金キム煥フアン泰テ（同志社大予科どうししゃだいよか）、鄭芝溶チョンジヨン（同志社大英文科どうししゃだいえいぶんか）、尹東柱ユンドンジュ（同志社大英文科どうししゃだいえいぶんか）などがいます。そのうち鄭芝溶チョンジヨンと尹東柱ユンドンジュの場合ばあい、朝鮮半島ちょうせんはんとうのみならず日本にほんでも多おおく知しられている存在そんざいです。この二人ふたりはいずれも同志社大学どうししゃだいがくに通かよっていて、扶桑館ふそうかんの隣となりには鄭芝溶チョンジヨンの詩碑しひも建たっています。

これまで私わたしはこの二人ふたりについて研究けんきゅうを進すすめてきましたが、その論文ろんぶんの分量ぶんりょうが16000字じ、18ページを超こえているため、ここでは研究けんきゅうのソースとなる二人ふたりの作品さくひんだけを主おもに紹介しょうかいしたいと思おもいます。

まず、鄭芝溶チョンジヨンから見みてみますと、彼かれは1923年5月3日に同志社大学どうししゃだいがくの予科よかに入学にゅうがく、1929年6月30日に卒業そつぎょうするまで約6年間やくろくねんかん京都きょうとに在住ざいじゅうしていました。

彼かれが作品さくひんの末尾まつびに京都きょうとで創作そうさくしたことを明あきらかにしている作品さくひん合あわせて11編へんありまして、そのほかにも京都きょうとで書かいたと思おもわれる作品さくひんが複数存在ふくすうそんざいしております。

これは彼かれの代表作だいひょうさくで、同志社大学どうししゃだいがくに建たてられた彼かれの詩碑しひにも刻きざまれている詩し「鴨川かもがわ」の全文ぜんぶんです。

彼かれは散文さんぶん「鴨川上流かもがわじょうりゅう」などで、鴨川かもがわを自みずから3等分し、かみがも、なかがも、しもがもと分わけました。京都きょうとに上賀茂神社かみがもじんじゃと下鴨神社しもがもじんじゃなどがありますが、ここではそれらと関係かんけいなく、鴨川かもがわの上流じょうりゅうと下流かりゅうといった概念がいねんで理解りかいしていただきたいと思おもいます。

次つぎに出でてくるこの詩し、「橋はしの上うえ」は都心地帯としんちたいの鴨川かもがわの下流かりゅうから市電しでんに乗のって下宿げしゅくのある府立植物園ふりつしょくぶつえんの周辺しゅうへんに帰かえってきて、市電しでんの終点しゅうてんから当時とうじの中賀茂橋なかがもばしを東ひがしへ渡わたりながら書かいた詩しだと思おもわれます。

華はなやかな夜よるの街まちから抜ぬけ出だして、下宿げしゅくのある中鴨なかがもに戻もどってきたときの安心感あんしんかんが伝つたわってきます。

彼かれは同志社どうししゃにて日本人にほんじんの同人どうじんたちとも交流こうりゅうをしました。この交流こうりゅうは嬉うれしいことあり楽たのしいことでもありましたが、一方いっぽうでは亡国ぼうこくの民たみとしての自我じがや寂さびしさを痛感つうかんさせるきっかけでもありました。散文さんぶん「日本にほんの蒲團ふとんは重おもい」には、彼かれが感かんじたそういう悲かなしさがにじみ出でています。

京都きょうとで書いた彼かれの作品さくひんの根幹こんかんにはこういう憂鬱ゆううつさと悩なやみが根付ねづいています。彼かれが自みづから「憂鬱ゆううつの散歩者さんぽしゃ」と表現ひょうげんしたこの意識いしきは、京都きょうと時代じだいの彼かれの作品さくひんを読よみ取とるキーワードとして働はたらいています。そして、「日本にほんの布団ふとんの重おもさ」を切せつに感かんじつつ、「朝鮮風ちょうせんふうの花はな」を咲さかせねばと決心けっしんするのでありました。

次つぎに、尹東柱ユンドンジュです。尹東柱ユンドンジュは、彼かれの人生じんせいの最後さいごの3年さんねん（1942.3-1945.2)を日本にほんで送おくりました。彼かれは1942年3月に立教大学りっきょうだいがくに入学後にゅうがくご、10月に同志社大学どうししゃだいがくに編入へんにゅうします。日本にほん留学りゅうがくの際さいは、留学りゅうがくのために必要ひつような渡航証明書とこうしょうめいしょを発行はっこうしようとしました。しかし、この渡航証明書とこうしょうめいしょは、名前なまえを日本にほん名めいに変かえていないと、もらえないものでした。そのため、彼かれは創氏改名そうしかいめいをするのですが、その創氏改名そうしかいめいの5日前いつかまえに、名前なまえを日本式にほんしきに変かえることへの気持きもちを込こめて、「懺悔録ざんげろく」という詩しを書かいています。

彼かれは日本にほんにいる間あいだたくさんの詩しと日記にっきを残のこしましたが、ハングルで詩しを書かいた彼かれの行動こうどうは、1939年早稲田大学わせだだいがくの朝鮮人留学生ちょうせんじんりゅうがくせいによる「朝鮮文化向上運動ちょうせんぶんかこうじょううんどう」、朝鮮語ちょうせんごの辞書じしょを作つくろうとして治安維持法違反ちあんいじほういはんで33人が逮捕たいほ、2人ふたりが拷問死ごうもんしした「朝鮮語学会事件ちょうせんごがっかいじけん」に継つぐ民族意識高揚行為みんぞくいしきこうようこういであると特別高等警察とくべつこうとうけいさつによってみなされました。

1943年7月に治安維持法違反ちあんいじほういはんで逮捕たいほされ、福岡刑務所ふくおかけいむしょに送おくられます。逮捕時たいほじ、彼かれの原稿げんこうは全すべて没収ぼっしゅうされ、京都きょうと時代じだいの作品さくひんは「たやすく書かかれた詩し」以外いがいは何なにも残のこっていません。

「たやすく書かかれた詩し」は、1942年6月に自身じしんの下宿げしゅく、六畳間ろくじょうまの狭せまい部屋へやから書かいた詩しで、残のこされている最後さいごのものです。彼かれは灯火ともしびをともして 闇やみを少すこし追おいやり、新あたらしい時代じだいの朝あさが来きるのを待まち続つづけましたが、結局けっきょく、その朝日あさひを見みることなく、福岡刑務所ふくおかけいむしょ内ないで帰かえらぬ人ひととなりました。

彼かれの詩集ししゅうは、彼かれの死亡しぼうから3年後さんねんごの1948年に発刊はっかんされました。

ここまで、コリア文学ぶんがくと京都きょうとのかかわりについて紹介しょうかいしました。

現在げんざいは、尹東柱ユンドンジュの京都きょうと時代じだいについて残のこされている同志社大学英文科どうししゃだいがくえいぶんかの同級生どうきゅうせいの証言しょうげんや裁判さいばんの記録きろくなどを探さぐりながら彼かれの京都きょうと時代じだいの片鱗へんりんを探さがしています。

お読よみいただきありがとうございました。

（終おわり）